選任された破産管財人はベテランのジェントルな方だった
債務整理に入り3週間後、様々な検討を重ねた結果、破産手続きに入ることを決め、申し立てを行った。
そしてその数日後、裁判所により破産管財人が選任されたと弁護士から連絡が入った。
破産管財人は破産申立がされると裁判所が任命する弁護士で、一般的に破産申立者の本店所在地に事務所がある弁護士が選任されるようだ。
管財人は債権者に代わって破産者の財産を調査・管理をし、債権額に応じて配当する。また財産隠しなどの不正を暴くことも行う、言わば債権者の味方でもあるわけだ。
(管財人はどんな人なんだろう)と、ちょっと不安な気持ちを持ちつつ、弁護士と管財人の事務所を訪問した。
出てこられたのは、管財人であるベテランの男性弁護士のほか、管財人とともに当社を担当される女性の弁護士ともう一人の男性弁護士。
当社の情報はある程度把握されていていた。
また事前に管財人から送られて来ていた質問への回答は、弁護士経由ですでに送っていた。
管財人はベテランらしく、処理するポイントを的確に捉えて、一つひとつ判断をしていく。
穏やかな雰囲気の中、淡々と確認が進んでいった。
そして会社の代表印(実印)、預金通帳と一切の現金、本社含めて全ての鍵などの引き渡しが行われた。
管財人が選任されると社長であるぼくの一切の権限が管財人に移行するということを聞いていたが「会社はもう我々のものではないんだ。」と思い知らされる瞬間だった。
最後に管財人から社長であるぼくに残務整理についての協力を依頼された。
これもその時に知ったことだが、もちろん社長の給与は支払われないが、残務整理をした日は日当を支払ってくれるとのことだった。
「それでは来週から店舗を一緒に周りましょう。」とこの日の初顔合わせと打ち合わせは終わった。
四角四面で重箱の隅をネチネチと突いてくるタイプの人だったら、という不安もあったが、とても懐の深いジェントルな方だった。
管財人の立場をよく知らないために、不満をぶつける家主もいた
管財人と一緒に行ったのは、主に賃貸していた本社・支店・店舗の家主との賃貸契約の解除と原状回復の打ち合わせ、そして本社・倉庫にあった在庫等の換金作業だった。
数日後、本社で待ち合わせ、すぐに店舗周りを始めた。
店舗に到着すると、家主に挨拶し、破産手続きの状況と今後の見通しの説明を行い、店舗内の備品・商品などの確認が行われた。
家主との交渉では、様々な事後処理をめぐって、管財人に不満をぶつける場面を目にした。また無理難題を管財人に突きつけ一歩も譲らないという態度を示す家主もいた。
一般的に破産管財人の立場や役割などが知られていないだけに大変な仕事だなと感じた。
余談だが、家主との交渉の過程で、家主の要望に対して誠実に応えたいぼくのお願いに対して、管財人は「普通それはやりませんよ。」と言いながらいろいろ対応してくださった。
店舗を数週間かけて周り、次に管財人が本社に来られた時は、片付けがほぼ終わり、ぼくと管理本部長だけが出社していた時期だった。
オフィスの状況を確認し、過去の経理関係資料が入った積み上げられた段ボール箱の中身を確認し、また商品や換金できそうな備品も確認された。
商品や換金できそうなものはリスト化して管財人と相談した。
管財人が重要視していたのは懇意にしている業者や知り合いなどに安価で売却されることがないようにということだった。インターネット等で調べた数社に相見積もりを取って一番高いところに売却した。
しかし一般の小売店では販売できないような一部の商品は例外で、同業者への一括処分を指示された。これら売却して得た現金は破産財団に組み込まれて、債権者への配当に充てられることになる。
オフィスの机や椅子、ロッカーなどは今の時代買い取ってくれるところはないことをこの時初めて知った。無料で引き上げてくれればいい方だと考えておいた方がいい。
そして始めて管財人にお会いしてから1ヶ月後、3度目に管財人が本社に来られた時は現場の最終確認だった。
ぼくが預かっていた鍵を返却し、その後の本社の残置物の廃棄、原状回復などの対応は管財人に委ねることになった。
この時点で管理本部長にも退職してもらい、その後はぼく一人が残って、まだ完了していなかった店舗での貸与・リース品の引き上げの立会い、片付け、そして原状回復の打ち合わせを、自宅から現場に向かい対応した。
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