勤めていた会社を退職
「退職させてください。」口から出てきたのはこんな言葉だった。
創業する前、ある企業グループに長く勤務していた。跡取りがまだ小さかったこのグループの幹部として定年まで勤めるつもりでいたので、転職しようとか、独立しようとか、考えたことはなかった。
しかしいつしか(自分の信条に沿った仕事なの?)という小さな疑問が少しづつ大きくなり始めていた。
そんな時、会長はぼくの心の変化に気付いてくれたのだろう。
ある日突然呼ばれ「お前来月からA社の社長をやってもらうからな。」グループの稼ぎ頭であった会社への栄転の話だった。
それから結論保留の状態が続いいていたが、約3ヶ月間後に「おまえの気持ちは変わっていないんだな。わかった。何か応援してやれることがあれば言ってこい。」ようやく退職の許しがでた。
会長には退職までの3ヶ月間とても大切にしていただいた。起業してから数か月後には会社を訪ねて来てくれ、今でも連絡をいただきとても感謝している。
勤めながらの起業準備
それから退職日までの3ヶ月間、様々な可能性を考えて、少しづつ事業のイメージを作っていった。
仕事が終わってから創業時のメンバーで集まってビジネスモデルを固めていくミーティングをしたり、休日にはオフィス探し、会社設立の準備などを進めた。
会社設立時の資本金である1,000万円は、預金そして身の回りのものを処分するなどしてなんとか準備した。
現在では会社設立書類の作成から、その後の会計、税務申告までWEB上で簡単にできる安価で便利なサービスがあるが、当時はそんなものはなかった。ぼくはビジネスモデルの構想を練ることと、他の準備を優先し、税理士の先生に会社設立書類の作成と手続きをお願いすることにした。
インキュベーション施設で起業
オフィスについては、探していた地域にインキュベーション施設があることを知った。
インキュベーション施設は国や都道府県、市などが運営していたり、大きなオフィスビルの中で民間が運営している場合もあり、保証金・敷金や賃料の優遇、中にはオフィス家具や機器が備えてあったり、様々なサポート制度がある場合もある。創業したばかりのベンチャー企業にはとても魅力的だ。
何より創業したばかりのベンチャー企業が、とても入居できないような立派なビルにオフィスを構えることができることが何よりの魅力だと思う。
当社が入居した施設は入居時の保証金や敷金などは不要だったが、申し込み時に事業計画書の提出が必要だったので作成して申し込みを行った。
会社の成長には企業イメージが大切
創業期は特に外部の人たちが受ける会社のイメージが大切だと思い、企業理念やビジョンに合致した、品があり、成長しそうな会社名を時間を掛けて考えた。
そして次に重要なのが会社のマークだと思い、デザインしてくれる会社をWEBで探し、ある程度会社が大きくなっても見劣りしないものを、複数案の中から決めた。
結果、会社の実態よりも、名刺から伝わるイメージの方が立派に見えるようになり、成長を加速させてくれたと思う。
常識外れなビジネス構想
最終的に当社が目指したのはプロモーションカフェで、企業の商品・サービスのプロモーションを行い、企業からの広告収入と飲食売上を得られるビジネスモデルだった。
信用力・資金余力のないベンチャー企業が、早期に全国に店舗網を広げるために、フランチャイズチェーン方式を採ることにした。
フランチャイズチェーンを展開しようとした場合、先ずは直営店を出店し、試行錯誤を繰り返し、ノウハウを蓄積し、そのノウハウを提供することでその対価としての加盟金やロイヤリティーを受け取るというのがセオリーだと思う。
しかし創業間もないベンチャー企業に出店費用の数千万円を融資してくれる金融機関などなかった。
なので先に加盟店を募り出店してもらい、ノウハウと実績を獲得してから資金調達を行い直営店を出すというなんとも常識はずれな構想だった。
最終出勤日の翌日、希望に満ちた新しい会社のスタートだった。
しかし創業してすぐに売上があがるわけでもなく、手持ち資金が見る見るうちに減っていく。2か月目には(なんで起業なんてしてしまったんだろう)と、ひとり車の中で後悔と不安に潰されそうになることもあった。
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